大橋は枇杷島村と下小田井村の境にあり、小橋は下小田井村にある。元和八年(1622、壬戌)、國祖源敬公(尾張藩初代藩主徳川義直)が役人に命じて造らさせた尾張國第一の大橋で、東西に二つの橋が架かる。大橋の長さは七十二間(約131m)、小橋は二十七間(約49m)で、杭・桁・梁・高欄その他に至るまで、他の雑木を交ぜず、みな檜(ヒノキ)材を用い、その結構な善美は人の目を驚かせる。また両橋の間に中島といって、南北六町ほど川の中へ張り出す。南の方の三町ほどの場所は萩の草叢で、毎年秋の頃は、僅かな土地も残さず咲き乱れて紅紫の清流に映える。まことに奇観である。
ここに二軒の茶屋があって、往来の諸人の飲食を提供する。美濃路廻り中山道、および東西諸國へ通じる往還で、旅客はもちろん西國の諸侯方も通行する官道である。往来は常に行き交い、特に当府の西の要所であるため、市に出入りする商人をはじめ、四方の諸人もみなこの橋に集まり、実に肩摩(肩が触れ合うほどの)の賑わいである。また橋の上から遠く四方を望めば、信州の御嶽・駒ヶ嶽・加賀の白山・近江の伊吹山・伊勢の多度山・美濃の養老山・金華山・惠那山、三河の猿投山・及び飛越二州の山々まで、すべて八箇國の峻秀が四望の内につき、近く東南を望めば、金城(名古屋城)が高く雲の上に聳え、府下の万家も一瞬に入り、西北は本宮山・小牧山、その他の山々までみな鮮やかに見え渡り、春の麗・夏の涼・秋の月・冬の雪まで、四季の眺めは尽きることがない。古今の文人も詩人も、この境に到らぬことはなく、また類ない勝景である。
琵琶の由来は◎枇杷島を読むべし。
『新川集』
琵琶橋歩月 岡田新川
琵琶橋畔夜如何。岸幘披襟好並過。蘋末輕風生曲浦。雲端素月上層柯。紅閨影落長流水。白苧聲飄數疊歌。不道人間仙路隔。乘槎直欲到銀河。
(:琵琶橋月に歩す 岡田新川
琵琶橋のほとりの夜はどのような様子だろう。額を出し襟をはだけた様子で、睦まじく並んで通り過ぎる。水草の端からの軽やかな風が曲がる淵に生まれ、雲端の白い月が重なり合った枝に昇る。紅閨(舟の部屋の灯り)の影が落ちる長流の水。歌声漂い、幾度も繰り返される。道は俗世のものでなく仙界の路が隔てるかのようであると。筏に乗って真っ直ぐに銀河に行き着きたいものだ。
『臥游園詩集』
經琵琶橋 延壽道人
城外逢人識面稀。十年空負舊庭闌。官橋影射滄波動。旅雁聲凌碧落飛。松下長堤通大道。天涯斜日照寒衣。蓬莱一路行將近。五色祥雲迎錫歸。
(:琵琶橋を経て 延壽道人
城外で人に逢うものの、顔を識っているのは稀である。十年空しく過ぎ古い庭は落ち着いている。官橋の影が青波を反射して動く。旅の雁の声は、青空を凌いで飛んでゆく。松の下の長堤には大道が通じ、天の果ての傾く夕日が寒衣を照らす。蓬莱(仙界)への一路は近づこうとし、五色の祥雲が錫杖を迎えて帰ってゆく。
『社盟詩載』
良察
琵琶橋上對斜曛。極目徘徊思出群。玉府千重高嶺雪。金城十里暮雲天。翠松蓊鬱雙行列。緑水潺湲兩派分。好景新詩成未去。疎鐘點々隔林聞。
(:琵琶橋の上で黄昏に対面する。目を極めて徘徊していると、物思いをはじめる。宮殿が千重に重なるかの高い嶺の雪。金城(名古屋城)は十里、暮れる雲の空。翠い松が青々と茂り並び立ち、緑の水がさらさらと流れ、二つに分かれる。好ましい景色のなかで新しい詩が出来たが去らず。かすかに鐘の音が点々と林を隔てて聞こえる。
秦滄浪
怨復怨兮江水頭。琵琶白菊幾囘秋。幽衷不得絃中訴。山雨河風向客愁。
(:怨んでまた怨むことよ、大河の水のほとりで。琵琶の音を聴き、白菊を眺める幾度の秋。幽かな衷しみが絃中に訴えていることは分からないが、山の雨、河の風が客に向かって、ともに愁い悲しんでいる。
松田常春
織月如眉照淺汀。相公曾此別娉婷。琤々驟雨橋頭過。似向琵琶絃上聽。
(:細い月が眉のように浅瀬を照らす。相公はかつてここで女と別れる。澄んだ音を立てて、にわか雨が橋のたもとを通り過ぎる。琵琶の弦が上に向って音を立てるのに似ている。
琵琶橋晩望 村井泰翁
官道二三里外。蒼茫暮色如描。淡烟東岸西岸。斜日長橋短橋。楊柳垂邊鷺宿。漣漪動處魚跳。滿眸皆是詩料。不似徘徊市朝。
(:官道を二・三里離れ、見渡す限りの青空は暮れ色を描く。淡い霧が東岸西岸に立ち込め。傾く夕日が長橋、短橋を照らす。柳の木が垂れる邊に鷺(サギ)が宿り、さざ波動く所で魚が跳ねる。眸に満ちるものはみな詩の材料で、街を徘徊するとは違っている。
月夜琵琶橋醉歸 奥田桐園
橋分兩郡雙龍影。水孕中洲白練光。醉歩歸來凉可掬。蝶姑聲裏月微茫。
(:橋は両郡を分ける双龍の影。水は中洲を孕む(包む)白練の光。酔って帰り凉しさをすくう。鳥や虫の声が響き、月はかすかに白く輝く。
琵琶島を過ぎて
よつの緒の 長きうらみに沈みしも 河瀬の水の 世々にながれて
岩倉具選卿 琵琶の四つの弦のように長い恨みに沈むが、その河瀬の水は世が変わっても流れる
妙音殿の故事を思ひいでて
往方を あふぐこゝろの泉もて 汲み知るよつの 緒はたえめやも
季鷹 遠い昔を仰ぐ心の泉をもって味わい知る、よつの緒は絶えないだろう
しら菊の 露と消えにしあとまでも 四のをの名を こゝに残して
検校花の一 白菊の…
秋
あさ霞 ゆふべのすゞみ月ゆきの ながめに富める 橋のうへかな
道直 朝霞、夕涼みの月、眺めが豊かな橋の上かな
春 夏
琵琶島の いはれとひ〳〵 夕すゞみ
五笊坊 琵琶島の云われを問い問い、夕涼み
夏
雁並ぶ 聲に日の出る 河原かな
士郎 雁並ぶ…
秋
春深き 色や眞蘇木の 尾張富士
秋麿 春が深くなり、木々の青葉が生い茂る尾張富士
なお尾張富士は◎こちらをご覧ください
春
波形に 干あがる砂や 初月夜
沙鴎 波形に…
秋
参考
『尾張名所圖會 前編 巻二』(岡田啓・野口道直、天保十五年-1844)