※現在は営業していない。
大野村高須賀町の龜屋久兵衛の家が、はじめてこれを製した。その名は元は「芥子香」といったが、ある時國君(尾張藩主)へ献上したところ、たいへん気に入られ、「一口香」と命じられたという。それ以来、その名は遠近に高く、三都をはじめ、諸國へも多く運送され、製造が追い付かないほどに至った。
また湊屋という家でも同じものを製し、品格・風味は勝劣を分けないが、龜屋を本家とするという。その他もこれを習い伝わってこれを製するというが、この二家の外は品質が劣る。この湊屋の隣で、習い伝わって一口香を製したのが、ここの風月堂であるが、現在は営業していない。
当所は郡内随一の繁華で、街並みは善美、商家は巨豪と、実に富饒第一の地であり、名産もまた挙げて尽くし難いほどである。
また世に大野鐙(あぶみ)というのも、当所に名工がいたためであろう。鐙に大野懸(がけ)というのも、恐らく当所からの名前であろうか。今ここにしるし後考に備える。
参考:『尾張名所圖會 前編 巻六』(岡田啓・野口道直、天保十五年-1844)