水源は信州鳥居峠より出て、濃州(美濃)を経て、桑名の海まで五十里の長流で、水の勢いは激しく、栗栖に至ってはじめて尾張に入る。このあたりの川の中に、奇石・怪岩が重なってそびえ立ち、古木が森々と茂り、風景は他と異なる。蜀江(中国の名勝地)の碧水もこのようではないかとおしはかられる。
大吉蘇(おほぎそ)や をぎその川は みすゞかる 信濃の國の 山々の 谷の雫(しずく)に 落(ち)ちつもり たぎちあひつゝ はろ〴〵に 流れてたえず いにしへゆ 吉蘇(きそ)と名におふ 名ぐはしき このきそ川は 山鳥の 尾張の國と もゝしぬ 美濃の國と みつ栗の 中をながれて 犬山の 里を湊(みなと)と 百津船(ももつふね:様々な船) こゝにつどひて あした(:朝)には筏をくだし ゆふべには 船引きのぼり 上つ瀬に簗(やな)うちわたし 下つ瀬に 大網引きて 鱒鱸(ます・すすき) さばしる年魚子(:勢いよい鮎の子) そをとると さわぐ海士(あま)らが よび聲も さやにきこえぬ これのこの 大ぎそ川は もろ〳〵の みなたりみちて うまし川の まぐはしき川ぞ
來て見ても みがほし川ぞ大吉蘇や をぎその川は みがほし川ぞ 秋輔
参考:『尾張名所圖會 巻六』(岡田啓・野口道直、明治十三年-1880)